酒井健司
天然痘は地球上から根絶できました。麻疹とポリオも理論上はワクチンで根絶可能です。人の病気で、ほかに根絶可能なものあるでしょうか。完全にゼロ、というわけにはいきませんが、ほぼ根絶できた病気ならあります。代表的な病気でまず思い浮かぶのは脚気(かっけ)です。手足のむくみ(浮腫)、しびれ(末梢神経障害)、全身倦怠(けんたい)感といった症状が特徴で、重症化すると心不全を起こして死亡します。
現在では脚気の原因はビタミンB1欠乏だとわかっています。精米するとビタミンB1を豊富に含む糠(ぬか)が取り除かれるため、十分な副食を取らず白米だけをたくさん食べると脚気になりやすいのです。日本では白米が普及した江戸時代ごろから広く流行し、明治時代には1年間で2万5千人以上もの人が亡くなったこともありました。ちなみに2021年の日本の新型コロナ死亡数は約1万5千人です。
新型コロナと違って脚気では若くて元気な人が多く亡くなります。当時は白米がごちそうで、軍隊に入れば白いご飯を腹いっぱい食べることができましたが、その食事が脚気を引き起こしました。日露戦争の戦死者において、銃弾による死亡よりも脚気による死亡のほうが多かったといいます。欧米では白米を食べる習慣がありませんので、脚気はほとんど起きません。兵隊が倒れる脚気は国防上の大問題で、脚気の原因について激しい論争が起きました。脚気にかかる患者は十分な食事をしているように見えるので、脚気の原因が食事であることはなかなか気づかれませんでした。しばしば集団で発生するので伝染病だと考えられ、「脚気菌」を発見したという誤報もありました。
それでもさまざまな研究が進み、1930年までには脚気が微量栄養素の欠乏によるという説は受け入れられました。その後、食事事情の改善もあって脚気による死亡数は減っていき、1960年代には年間100人以下になりました。現代日本の食事で脚気になることはまれです。私が医師になったのは1990年代ですが、脚気の患者さんを診たことがありません。
ですが、天然痘のようにゼロにはなっていません。現代でも、極端な食事法や偏食、アルコール依存症などでビタミンB1不足に陥る人はいます。政府統計によれば脚気による死亡は毎年数人は報告されています。死亡に至らない患者はもっと多いでしょう。脚気は診断がつきさえすればビタミンB1の投与で治ります。まれな病気であるからといって見落としは許されません。脚気に限らず、さまざまな病気の可能性を念頭において、油断せず診療しています。(酒井健司)
- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
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August 29, 2022 at 07:00AM
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天然痘のほかに根絶できた病気はある? ビタミンB1が不足すると…:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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