「寒がりな男子高校生が寒がるだけの漫画」というタイトルでPixivに掲載された作品が話題を呼び、改題されて1巻が刊行された『寒がりに雪』(吉近イチ/芳文社)。クールなまなざしが印象的で華麗な表紙のイラストに反し、中身はゴリゴリのギャグマンガである。
主人公・ユキのお隣さんで幼なじみの三郎(サブ)は、誰もが目を惹かれる長身の美男子だけど、極度の寒がりでいつも震えて暖を探している。ゆえに、平熱37.4℃のユキはいつもまとわりつかれ、悪目立ちしてしょうがなく、できればかかわりを避けたいと思っている。だが知り合いが一人もいないはずの高校で、入学式の日、背後からやってきたのは、聴力に差し支えるほどの大声で「寒い寒い寒い」と連呼しガタガタ震えながら迫るサブ。張り手をかまして拒絶するも、膨れた頬を撫でながら「叩かれたところがあったかい」「もう一回叩いて」と追いかけてくるサブ。何の因果かクラスも同じで、入学早々、周囲からはカップルとして認定されてしまい、サブが問題児だと早々に悟った担任からは、世話を押し付けられてしまうのだ。
寒がりのわりには暑苦しいサブに対し、平熱が高いわりに氷点下のまなざしで塩対応を貫くユキ。この2人の掛け合いがとにかく絶妙だ。担任にサブの行方を問われれば、ユキは「そもそもそんな奴この学校に存在しなかった…というのはどうでしょう?」と担任も怯えるガチの殺気を放つ。寒さをしのぐために手段を選ばないサブを止めるため、助走をつけて頭突きしたり壁に叩きつけたり、ジャーマンスープレックスをかますこともある。子どものころから体を鍛えるのが好きなユキは、体当たりで寄ってくるサブを徹底的に無視もしくは撃退し続けた結果、常人ならざる強い体幹と筋肉をそなえており、どう考えても目立っているのは彼女自身も変な人で、なんだかんだサブを見放さない面倒見のよさのせいなのだが、それに気づいていないところも痛快だ。
さらに本作では、2人に負けず劣らず個性的な生徒が登場する。なんといっても、受け入れ先が見当たらないほど成績のわるいユキが唯一合格し、冬の寒さに震えて試験どころではなかったサブが、それでも首席になれた高校である。ユキに一目ぼれした淳……はまだマトモだが、淳に片思いする琴菜は、釘を無数に刺したバットを常に持ち歩くヤンキー、と思いきや黒服の男たちを従えるお嬢様(極道だろうか?)。恋愛方面の情緒が死んでいるユキも、彼らに触発されて多少はサブを意識する未来もあるのか……?
少なくとも淳の登場で、サブは心乱されているらしい(が自覚はまったくない)。暖をとろうとしなければただのイケメンなサブに戸惑うユキの姿も1巻ラストの9話目に収録されており、9割がたがギャグであるゆえに、ほんのわずかな少女マンガ的展開にもときめいてしまうのだけど、できることなら幼なじみ以上友達未満な2人のシュールな関係を長く味わっていたいとも思う。不思議な味わいのマンガである。
文=立花もも
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August 03, 2020 at 03:36PM
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