Friday, December 27, 2019

インフルエンザ、注射にプラスして予防効果のある方法とは【Dr.純子のメディカルサロン】 - 時事通信ニュース

2019年12月28日09時01分

インフルエンザが流行した2015年冬の香港の病院(EPA時事)

インフルエンザが流行した2015年冬の香港の病院(EPA時事)

 ◆浦島充佳・東京慈恵会医科大学教授に聞く◆

 インフルエンザが心配な季節になってきました。予防注射をされた方も増えていると思います。それにしても、毎年、予防が叫ばれるのに、流行してしまいます。疫学の専門家である、東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授にお話を伺いました。(聞き手・文 医師・海原純子)

 ――浦島先生は臨床家であり、ハーバード大学に留学して、感染症予防の疫学的な研究もされました。そうした経験を含め、今回は疫学的な側面と日常生活の中でのインフルエンザ予防について、お聞きしたいと思います。最初に、先生の発表したビタミンDとインフルエンザ予防の関係について、お願いします。

 米国のデータになりますが、人々のビタミンDの血中濃度は、以前に比べて下がっています。論文によれば、半数以上が不足状態にあります。日本もそれに近い可能性があります。特に、冬場は日射量が少なく、日照時間も短い上、洋服を着込んで、マスクなどをすれば、日にほとんど当たらないので、ビタミンDは夏場のおよそ半分になります。

 ◇ビタミンD不足は危険

 ――女性は日焼けを避けますから、1年を通して日焼け止めを塗っている人が多いですね。また日照時間が少ない北海道や東北にお住いの人は、日に当たる時間が短くなりがちです。ビタミンDは、皮膚が太陽の紫外線を受けることで、皮下脂肪から合成されますから、日に当たる機会が少ないと、合成することができず、血中濃度は必然的に低下しますね。

 ビタミンDは気道粘膜に作用して、ディエンシンというタンパクを分泌させます。これが天然の抗インフルエンザ薬として作用し、インフルエンザウイルスの気道粘膜への感染を防ぎます。

 冬、ビタミンDの血中濃度が下がると、ディエンシン分泌が低下し、インフルエンザウイルスの感染を許してしまうというメカニズムです。

 私たちの研究グループは、ビタミンDのサプリメントがインフルエンザの発症を半分近くに抑制することを、「二重盲検ランダム化比較試験」という手法を用いて証明しました。

 ――先生が2010年に「American Journal of Clinical Nutrition」に発表された論文ですね。ビタミンDを投与した167人のうち、インフルエンザAを発症したのは18人(10.8%)だったのに対し、プラセボ(偽薬)では167人中31人(18.6%)が発症し、ビタミンDはインフルエンザAの発症を42%抑制したというものですね。

 この研究発表の後、世界的に上気道感染症に対して、ビタミンDを投与する研究が行われるようになりました。私たちは、こうした研究者たちに声を掛け、国際共同研究により、ビタミンDサプリメントが、感冒から肺炎までの急性気道感染症の2割を予防することをメタ解析という手法で示しました。

 ですから、小児科でインフルエンザや風邪を予防するにはどうしたらよいかという質問に対して、「子供は元気であれば、たくさん外で遊ばせてください」と説明するようにしています。

 ◇冬こそ日に当たることが大事

 ――なるべく室内の温かい所にいるようにしている方も多いと思うので、発想の転換が必要ですね。大人も、冬場はランチタイムの12時に日射量が1日のうちで一番多いので、オフィスから食事に出掛けて行く方がいいのではないでしょうか。そこで、企業の総務の方などがオフィスでインフルエンザ予防対策をする場合、必要なことを教えてください。

 換気をしっかりすることです。寒くなると窓を閉め切ることが多いと思いますが、時々空気を入れ替えることが大切です。

 ――以前、窓のない部屋で受験勉強の補習を受けていた学生が集団でインフルエンザ感染を起こしたということがありましたね。寒いと閉め切りになりやすいし、窓がなかったり、24時間換気の設備がなかったりする教室や会議室などは要注意ですね。

 インフルエンザは発症1日前くらいから感染力があるといわれています。また不顕性感染といって、熱が高くならないインフルエンザもあります。

 ですから、インフルエンザが流行している時期で、熱が無くとも、ちょっと身体に違和感があるようなら、早退するなり、在宅勤務に切り替えるなりした方がよいと思います。

 あるいは、そのようなことができる雰囲気やシステムを普段からつくっておくことも重要だろうと思います。

 ――予防注射だけでなく、冬は日差しに親しむという意識も、インフルエンザ予防に大事なんですね。浦島先生、ありがとうございました。

 (医療情報サイト「時事メディカル」より)

 【教授紹介】

 浦島 充佳(うらしま・みつよし) 1962年生まれ。東京慈恵会医大卒。小児科医として小児がん医療に献身。ハーバード大大学院にて予防医学・危機管理を修了し実践中。2018年6月に「病気スレスレな症例への生活処方箋」(医学書院)を出版。

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