年金に満額、上限はあるのか? 年金は最大でいくら受け取れるのかを解説
公的年金はリタイア後の収入の柱になるものです。したがって、誰しも少しでも多く年金を受け取りたいと思うもの。たまに、「年金って最大でいくら受け取れるものなんですか?」という質問を受けることがあります。そもそも公的年金に「上限(満額)」は存在するのでしょうか。
国民年金(老齢基礎年金)の満額は79万5000円と79万2600円(令和5年度)の2パターンある
まず、国民年金から支給される老齢基礎年金の受給額についてです。
答えは「上限あり」。その額は2パターンあります。昭和31年4月2日以降生まれの方は79万5000円、昭和31年4月1日以前生まれの方は79万2600円(共に令和5年度)です。国民年金は日本国内に住所があると、20歳から60歳まで強制的に加入する(保険料を支払う)ことになります。
その間、滞納や免除期間がない限り、全員がこの満額を受け取ることになりますので、満額というより「定額」といったほうが正しいかもしれません。
国民年金の満額は毎年変わる。令和5年度は生年月日による格差が発生!
この満額は前年の物価や賃金の変動をもとに決まるため、毎年変動しています。平成16年以降は78万900円を基準として、これに毎年度の物価や賃金の変動を加味した改定率を乗じて計算されています。
令和5年度は生年月日によって改定率に差がつくことになり、先ほども触れたとおり、昭和31年4月2日以降生まれの方(令和5年度で67歳以下の方)は79万5000円、昭和31年4月1日以前生まれの方(令和5年度で68歳以上の方)は79万2600円となっています。
ちなみに令和4年度の老齢基礎年金の満額は77万7800円でしたから、どちらも昨年より少し増額になったことになります。
国民年金のスタート時に比べて保険料は110倍、年金額は33倍
では、国民年金がスタートした昭和36年時点での老齢基礎年金の満額はいくらだったか、想像がつきますでしょうか?
答えは「2万4000円」です。一方、保険料はたったの「150円」(35歳未満は100円)だったのです。
令和5年度の保険料は1万6520円ですから、年金額は約33倍になったのに対し、保険料は約110倍となっています。年金額の上昇よりも保険料の上昇ぶりが目につきますね。
老齢基礎年金の満額を受け取るための要件
老齢基礎年金の満額を受け取るには、20歳から60歳までの40年間、下記のいずれかである必要があります。
1. 保険料を納めている
2. 会社員、公務員であった
3. 第3号被保険者(会社員、公務員の被扶養配偶者)であった
この40年間の中で、保険料を滞納もしくは免除されていると、その期間分が減額されます。ただ、40年の期間が足りない場合、要件はありますが、滞納や免除期間についてさかのぼって納付したり、60歳以降任意加入したりすることにより、満額にする(近づける)ことも可能です。
老齢基礎年金額の推移で見えるもの
先ほど、制度スタート時の満額が2万4000円だと説明しました。その後の推移をみると、
昭和48年:24万円
昭和51年:39万円
昭和55年:50万4000円
と高度経済成長時にかけて満額も大幅アップしていることがわかります。そして、さらに平成に入っても上昇は続きます。
平成元年:66万6000円
平成6年:78万円
平成11年:80万4200円
この80万4200円というのが、今までの満額の中での最高額となります。その後、デフレとともに年金額が微減していき、令和5年度の79万5000円、79万2600円という流れになります。したがって『おおむね「80万円」』が老齢基礎年金の満額といってもよいでしょう。
老齢厚生年金に満額はない!?
一方、会社員、公務員の皆さんが加入する厚生年金(老齢厚生年金)には満額というものは存在するのでしょうか?
老齢厚生年金は、加入期間と加入期間中の平均給料によって決まります。加入期間が長ければ長いほど、平均給料が高ければ高いほど年金額が多くなる仕組みです。したがって「満額」という概念はありません。
ただ、加入期間については70歳という上限がありますし、平均給料についても月額給料が62万円、1回の賞与が150万円という上限が設けられています。なお、加入期間とは「会社員、公務員であった期間」を指します。
極端な話、中学を卒業してから70歳までずっと会社員か公務員で、給料と賞与がずっと上限だというのが「満額」といえるかもしれません(「上限」という言い方が正しいのでしょうが)。
仮に、こういった人がいるとして計算すると、現在の計算方法で年300万円ぐらいになると思われます。ただ、そんな人はほとんどいないでしょうが……。そうすると、「満額」という概念は老齢基礎年金にのみあるものといえますね。
文:和田 雅彦(社会保険労務士)
大学卒業後、地方銀行に勤務。1999年9月、社会保険労務士資格を取得し独立開業する。FP資格も取得し、年金を含めたライフプランの相談も多数受ける。年金、保険、労働問題の執筆や講演業務も行っている。
(文:和田 雅彦(社会保険労務士))
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