【ブリュッセル=酒井圭吾、ロンドン=池田慶太】北欧フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、集団的自衛権を有するNATOの拡大を阻みたいロシアのプーチン大統領にとって大きな打撃となる。NATO加盟国とロシアの国境は計約2600キロ・メートルに倍増し、双方は安全保障上の戦略再構築を本格化させる構えだ。
「プーチン露大統領はNATOを縮小させるため、戦争に踏み切った。だが、我々はフィンランドを得た」。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は3日の記者会見でこう強調した。
英国際戦略研究所の「ミリタリー・バランス2023年版」によると、フィンランドの兵力は1万9000人。NATOの総兵数は約331万人で、新規加盟に伴う増員は1%に満たない。ただ、フィンランドの空軍は精鋭部隊として知られ、米製F18など戦闘機を107機保有する。徴兵制も続け、予備役は23万8000人とNATOでも有数の規模だ。
フィンランドはウクライナ侵略開始前から、NATOと軍事演習や機密情報の共有を進めてきた。正式加盟により、ロシアが戦略的に重視するバルト海や北極圏の制海権をNATOは得やすくなる。現在8か国に展開する多国籍軍「即応部隊」の基地を、フィンランドに新設する議論を始めるとみられる。
70年以上にわたり軍事的中立を国防政策の柱に据えてきたフィンランドにとって、加盟は歴史的な節目となる。ペッカ・ハービスト外相は3日、「欧州、北大西洋の安定と安全を促進したい」と声明を出した。
フィンランドは第2次世界大戦で、ロシアの前身・ソ連との戦いに敗れた経験から、ロシアとの安定した関係を優先させてきた。NATO非加盟のウクライナで昨年2月、ロシアの侵略が始まり、中立の継続に不安を抱く世論が強まった。侵略前の世論調査では長年、加盟支持が30%以下にとどまっていたが、現在は約80%が賛同する。アンティ・カイッコネン国防相は「どの加盟国よりも国民はNATOを支持している」と強調する。
冷戦終結後、ソ連の衛星国だった東欧各国や旧ソ連構成国の一部はロシアの下を離れ、NATOは東方へ拡大した。プーチン氏は拡大阻止をウクライナ侵略の理由に掲げるが、欧州で高まった危機感が結果的にフィンランド加盟を誘引した。
ロイター通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は4日、「NATOの戦闘態勢を強化する動きは紛争のリスクを高めた」とけん制した。ロシア通信も3日、アレクサンドル・グルシコ外務次官が「(ロシア)西部や北西部の軍事的潜在力を強化する」と述べたと報じた。ウクライナに軍事力を集中させるロシアが北西部の軍事態勢を強化できるかは不透明だが、NATOとロシアのにらみ合いは激しさを増しそうだ。
【ロンドン=池田慶太】北大西洋条約機構(NATO)に昨年5月、足並みをそろえて加盟申請した北欧2国はスウェーデンの承認が先送りされ、明暗が分かれる結果となった。
フィンランドの先行加盟が確定した3月末、スウェーデンのトビアス・ビルストロム外相は、目標とする7月のNATO首脳会議までの加盟実現に「高い期待」を持っていると地元メディアに述べた。以前は「完全に確信している」と述べたが、トーンダウンした。国内では失望が広がり、野党は「先送りを許した」と政府の対応を批判している。
新規加盟には既存の加盟全30か国の承認が必要となるが、トルコとハンガリーはスウェーデンの加盟を認めていない。トルコはテロ組織とみなすクルド人勢力らの身柄引き渡しに応じるまで承認を保留する構えだ。ハンガリーは、凍結された欧州連合(EU)補助金の解除を駆け引き材料にするフシがある。両国の政治的思惑に巻き込まれたことは、スウェーデンにとって大きな誤算だった。
先行加盟を果たしたフィンランドは「内側からスウェーデンの加盟を後押しする」と強調し、欧米主要国も4日、スウェーデンの加盟を支援する考えを重ねて示した。最終的な判断は2国の手に委ねられており、早期に加盟が実現するかどうかは不透明だ。
からの記事と詳細 ( フィンランド加盟、NATO―ロシアの国境は倍増2600キロに…プーチン氏に大打撃 - 読売新聞オンライン )
https://ift.tt/7m0udT1
日本
0 Comments:
Post a Comment