放牧されている馬を眺めながら散策する天皇、皇后両陛下と長女愛子さま。天皇陛下が手で指し示した桜を見ようと、皇后さまが顔を寄せたところ、互いの頭がぶつかるハプニングがあり、陛下が「ごめんなさい、ごめんなさい」と笑顔で皇后さまをフォロー。牧場内に天皇ご一家の笑い声が広がった。普段の公務とは違う、リラックスした様子が伝わる場面だった。
ご一家は5日、静養のため栃木県の御料牧場を訪れた。
新型コロナウイルスの感染状況を考慮し、静養を見送ってきたご一家にとって、静養は実に約3年7カ月ぶり。滞在先に選ばれたのは、これまでも生き物とのふれ合いや野菜の収穫などを楽しんできた、ご一家が大好きな場所だった。
夕方に車で到着したご一家は、職員らに出迎えられ、笑顔であいさつ。「ようこそおいで頂きました」と出迎えた福田富一知事に、陛下は「お世話になります」と伝えた。ウグイスの鳴き声を受け、知事が「御料牧場のウグイスもお待ちかねです」と伝えると、愛子さまは笑い、皇后さまは「楽しみにしています」と応じた。
栃木県高根沢町と芳賀町にまたがる標高145メートルの丘陵地にある御料牧場。東京ドーム約54個分に相当する約252ヘクタールの広大な「皇室の牧場」は、皇室の静養先以外にも様々な役割を担う。
例えば、①皇室用の乗馬や馬車をひく輓馬(ばんば)の生産育成②家畜・家禽(かきん)の飼養管理③皇室の方々の食事や賓客のもてなしに使われる牛乳・肉・卵・野菜などの生産④在日外交団の接遇など国際親善の場などだ。
そのほか牧場では、乳製品をはじめハム・ソーセージ、缶詰、若鶏の燻製(くんせい)などの加工品も手がける。
牧場産の卵や野菜、肉などは週に3回、皇居に輸送されて皇室の方々の食事に使われたり、園遊会でチーズやジンギスカンなどとして招待客に振る舞われたりする。
宮内庁庁舎内の職員食堂の自動販売機では、牧場産の牛乳を瓶入りで販売。濃厚で味わい深い牛乳は、職員らの間でも人気だ。
牧場産の食物や加工品は、かつて災害時に活用された。
三宅島(東京都)の噴火による全島避難後の2000年と01年、在位中の上皇ご夫妻は都内に避難中の児童生徒らに牧場産の牛乳を贈ったほか、11年の東日本大震災の直後には栃木県内に避難中の被災者に牧場産の卵や缶詰を提供した。
牧場では現在、馬(約30頭)、乳牛(約40頭)、めん羊(約600頭)、ブタ(約60頭)、鶏(約1100羽)、キジ(約90羽)が飼育されている。静養中の皇室の方々が馬などとふれ合う機会も多く、静養中の癒やしの場にもなっている。
愛子さまや秋篠宮家の長男悠仁さまも幼い頃から馬にエサを与えるなどして親しんできた。
特に愛子さまは皇后さまゆずりの生き物好きで知られ、幼少期には牧場でかわいがっていたブタをモデルに、紙粘土や松ぼっくりなどで「ぶたちゃん」という作品を作るほどだった。
また21年5月には皇后さまとともに皇居内の厩舎(きゅうしゃ)を訪れ、幼少期から何度も乗ってきた牧場生まれの雄馬「豊歓(とよよし)号」と触れ合った。
主に騎馬用の馬として活躍したが高齢になり、牧場で余生を過ごすため、愛子さまが希望して足を運び、ニンジンを与えたり鼻をなでたりしながら別れを惜しんだ。
宮内庁によると、残念ながらブタは14年1月に、豊歓号は22年12月にそれぞれ死んでしまったが、様々な出会いやふれ合いの場となったこの牧場は、ご一家にとって大切な場所の一つに違いない。
そんな豊かな自然や数々の思い出が詰まった牧場での静養は、これまで外出を極力控えてきたご一家にとって、リフレッシュ出来る機会となるだろう。
「本当に久しぶりに3人で御料牧場に来ることができて、とてもうれしく思います。滞在にあたって尽力して頂いている皆さんに深く感謝しております」
この日、報道陣の前で語った陛下の言葉からは、久しく待ち望んでいた思いが伝わってきた。静養後のご一家の活動にますます注目していきたい。(多田晃子)
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