自民、公明両党は15日、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出解禁で合意した。政府は輸出方針を閣議決定した上で、26日にも「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定する。典型的な殺傷兵器である戦闘機の輸出解禁は、平和憲法の理念に基づき、武器輸出には抑制的に対応してきた日本の安全保障政策の大転換となるが、国会の関与はないまま、自公両党は「密室」協議で決定。実際に輸出の個別案件を決める際にも、野党を含めた国会の監視は届かないことになる。(川田篤志)
◆「政治的な責任を与党が負う」と自民・渡海氏
政府は新たな閣議決定で、2022年末に改定した安保3文書の「防衛力整備計画」に記載されていなかった次期戦闘機の第三国輸出の容認を明記する。実際の輸出案件ごとに可否を決める際も閣議決定し、事前に与党協議を行う方針も示した。
自民の渡海紀三朗、公明党の高木陽介両政調会長が会談し、輸出解禁で一致した。会談後、渡海氏は「政府が勝手に決めるのではなく、政治的な責任を与党が負う」と説明した。
◆実効性に疑問が残る「歯止め策」 公明は実績として強調
高木氏は「政府の意思決定を厳格化する『二重の閣議決定』を行い、『三つの限定』を運用指針に書き込むことも明確化された」と述べ、公明が求めてきた「歯止め策」が盛り込まれた合意の意義を強調した。
「三つの限定」は、
(1)輸出は次期戦闘機に限る
(2)輸出先は国連憲章に沿った目的以外の使用を禁じる「防衛装備品・技術移転協定」の締約国に限定
(3)「現に戦闘が行われている国」は除外する
という3点の条件を指す。
ただ、指針案には「個別の(共同開発)プロジェクトごとに運用指針に明記していく」とも記され、輸出対象となる武器は今後増える余地を残す。自民の小野寺五典元防衛相は「新しい案件は次々に追記していけば良いだけで何の制約もない」と強調する。
協定の締結国は現時点で米英など15カ国。輸出先が限定されるように見えるが、自民党内からは「未来永劫(えいごう)15カ国なわけじゃない。必要があれば20、30カ国と増やせば良い」との声が上がる。協定に従って適正管理されるかの保証もなく、輸出された戦闘機が紛争に使われる恐れがあり、「三つの限定」の実効性には疑問が残る。
政府は昨年12月、外国企業の許可を得て日本で製造するライセンス生産品など殺傷武器の輸出を一部容認。共同開発品の部品や技術の第三国輸出は解禁したが、完成品まで容認するかどうかは、与党間で検討が続いていた。
立憲民主党の長妻昭政調会長は15日、記者団に「与党だけで決めるのは拙速だ。慎重議論と国民的合意を得る必要がある」と批判し、国会で経緯を説明するよう政府に求めた。
◆「政府だけで行う閣議決定は何の歯止めにもならない」
上智大の中野晃一教授(政治学)の話 戦闘機は「戦闘」目的であることに間違いのない武器。戦闘に使わないことを想定して輸入する国はない。岸田文雄首相は「平和国家としての基本原則は変わらない」と言うが、日本が造った戦闘機で人が殺されたら、平和国家でなくなることになる。
安全保障政策の変更を国民が見えないところで決めていることも非常に大きな問題だ。政府だけで行う閣議決定は何の歯止めにもならない。2014年に憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使を容認した時も、自民、公明両党の共同作業だった。今回も与党内でもめているのを国民に見せることで、政府から何かしら譲歩を引き出したように見せかけているが、実際には政府の決定を遅らせただけだ。
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