「検事から『酒をやめなさい』と言われたが『議員を辞めなさい』とは言われなかった」
記者団の取材に対してこう発言していた千葉県長生村議会の議長。
公用車の中で女性職員にけがをさせたとして罰金刑を受けた。
事件発覚から1か月半で、議会から3度も辞職勧告を受けた。
そして6月30日に辞職。
この短期間に起きた異例の事態から議員辞職勧告決議の持つ意味を考えた。
(千葉局 荻原芽生)
辞職勧告決議が出ても
人口1万3000人余り、九十九里浜に面し、温暖な気候に恵まれた千葉県唯一の村、長生村。
村議会の東間永次議長が、4月、職員の歓送迎会に出席して自宅に帰る途中、車を運転していた村役場の20代の女性職員を後部座席からたたいてけがを負わせた。私的な会だったが、乗っていたのは公用車だった。議長は、傷害の罪で略式起訴され、裁判所から罰金20万円の略式命令を受けた。
「言語道断だ」(70代男性)
「村民も信頼を寄せていた人だと思っていたので、がっかり」(60代女性)
事件発覚後、村には苦情や批判の電話やメールが相次いだ。電話は多い時で1日100本以上。「ふるさと納税の寄付を止める」といった連絡もあったという。中には7時間以上にもわたる電話もあり、村の担当者は「業務にも支障を来してしまっている」と嘆いていた。
批判の的となった東間議長は77歳。
1990年の選挙以降、これまでに9回当選したベテランで、議長の職に就くのは4度目だ。
東間議長に1度目の辞職勧告が決議されたのは5月30日。
「現職議員の逮捕は村議会始まって以来の不祥事で事態の重大さを真摯に受け止めるべきだ」として採決した14人の議員全員が賛成した。
本人は勾留期間が明けても体調不良を理由に本会議を欠席していたが、6月20日、議会の特別委員会に出席した。
「ご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と初めて公の場で謝罪したが…
(東間議長)
「検事から『酒をやめなさい』と言われたが、『議員を辞めなさい』とは言われなかった。後援会や支援者から『信用を得るため議員を続けたらどうか』と言われ、助けてくれる人がいるんだなと思った」
こう議員辞職しない考えを明らかにした上で、弁明した。
(東間議長)
「私は右利きですが、女性の左上腕の診断書が出ているということなので、自分の腕で届くのかな?と思った。しかし、私以外に車内で暴力をふるう人はいないので、認めました」
2度目の辞職勧告決議
その日の午後、村議会は女性職員が公用車の中で録音していた音声などから、パワハラ・セクハラ行為もあったことが確認されたなどとして、議長に対し2度目となる辞職勧告決議案が提出された。
今度は11人が賛成、3人が反対の賛成多数で可決された。
1回目の辞職勧告決議には賛成していた議員のうち3人が反対に回った。
賛成した3人は、この日の委員会でこう発言していた。
「議長の腕を見て下さい。議長は腕が短いでしょう。殴るには腕が届かないのでは」
「議長はすでに罰金を払って反省をしている」
(東間議長)
「今回は、何人か反対の方がいて、失礼かもしれないが少しうれしいという気持ちです。やり残したこともあるのでどうなるか、今後支援者とアポをとって話し合いたい」
副議長にも辞職勧告決議
長生村議会には辞職勧告決議を受けながら「辞めない」議員がもう1人いた。木嶋晴一副議長だ。
事件の際、木嶋副議長は東間議長と共に公用車に乗っていた。公務が無いにもかかわらずだ。これについて木嶋副議長は「乗っていたのが公用車だという認識は無かった」と説明した。
そして事件については。
(木嶋副議長)
「知りません。私は見ていません。半分眠っていたような感じで記憶にない。何かされれば『痛い』とか『やめてください』というそういうSOSが出てもいいのかなと思いますが全く、そういうことは聞いていませんので、よく分からなかったですねぇ…」
こうした対応を受けて、副議長に対しても「議長の暴行を制止できなかった」として辞職勧告決議案が提出された。
採決が行われている間、議場から出て階段の踊り場で待機していた木嶋副議長。窓から外を眺めながら、何を思っていたのかは知る由もない。
議員10人が賛成して可決されたが、木嶋副議長は「今後の議員活動、村民のために一生懸命、頑張っていきたい」とだけ短く述べ、議員を続ける意向を示した。
しかし、その後、公用車の利用なども含め、辞めないことに対する批判の声は大きくなる。
そして、6月26日付けで副議長職の辞職願を提出、29日になって、議員辞職願も提出した。
理由について、木嶋副議長は「一身上の都合」とだけ説明している。
「議員にとどまるのは許されない」
東間議長も26日付で「議長職」の辞任を申し出た。
それを審議する本会議が30日に開かれ、認められた。議員からは「議長を辞職すれば議員を辞職しなくてもいいと考えているのではないか」という意見もあった。
その上で「議員にとどまるのは村民感情から許されない」などとして、事件発覚から1か月半で3度目となる辞職勧告決議が可決された。
東間議長は体調不良を理由に欠席し、議場に姿を現さなかった。
しかし決議を受け「一身上の都合」として、一転、議員辞職願を議会に提出し、30日午後急きょ辞めることが決まった。
全国で相次ぐ辞職勧告決議 でも…
地方議会で辞職勧告決議を受けても「辞めない」議員は少なくない。
鳥取市議会では、去年12月、傷害の罪で罰金の略式命令を受けた議員に対し辞職勧告決議が可決されたが、本人は議員を続けている。
首長に対する辞職勧告決議も同様だ。
岐阜県岐南町では、町長が複数の女性職員にセクハラをしたとして、辞職勧告決議が可決されたが、辞職していない。
全国市議会議長会によると、2021年の1年間で、全国の市長や議長、副議長、議員への辞職勧告決議は25の市で35件可決されている。例年30件から40件程度が可決されているという。
ただ議員の中には2回の辞職勧告決議を受けながらも議員を続け、その後の選挙に立候補して再選を果たしたケースもある。
議員勧告決議に法的拘束力は無い
なぜ辞職勧告決議を受けても辞職せず議員を続けることができるのか。
辞職勧告決議は地方自治法に規定されていない。
「この人物は議員にふさわしくない」と議会としての意思を明確にするためのもので、法的な拘束力が無い。
住民が地方議会で議員の辞職を求める場合には「リコール」で訴えるしかない。住民投票を経てリコールが成立すれば議員は失職する。今回、長生村でも一時リコールを模索する動きがあった。
このほか地方自治法では議員に対する懲罰を定めている。最も重いのは「除名」で、議会で決定されれば議員は失職する。
地位が保障された議員の立場は重く、簡単に辞職させることはできないということだ。
かたや法的拘束力が無いのに議会が特定の議員の進退を決議することへの批判もある。
それでも議員辞職勧告決議を出すことに意味があるのか?
今回、2人が議員辞職することになった一因として、勧告がつきつけられたにも関わらず辞めないことへの批判が内外からあったことも影響していると見られる。
地方自治に詳しい日本大学法学部の浅野一弘教授は、辞職勧告決議そのものに強制力はなくても、有権者から議員としての社会的な評価を問われることになり、議員を続けることに対する説明責任が生じることに意味があると指摘する。
(日本大学法学部 浅野一弘教授)
「辞職勧告決議は住民の代理である議員が、この人物は議員にふさわしくないと意思表示をするものでそこに住民の声やメディアからの反響があることによって、大きな力になり意味が出てくる。今回のように、3度も出るということは通常ありえないことではあるが、まさに議会の力、それに伴うメディアや村民の声が加わり、議員辞職に結びついたケースといえる。さらに次の選挙にも立候補する場合、辞職勧告決議を受けたことは有権者が判断し、議会を監視する材料にもなる」
有権者は 村の行く末は
次の選挙では、各議員が辞職勧告決議をどう判断したかも含めて見極める材料のひとつにできるはずだ。
長生村だけでなく、全国の地方議会も同様に、そのあり方や、住民との距離、住民の議会への関心が問われている。
(肩書きは当時)
からの記事と詳細 ( 辞職勧告決議 なぜ3度も? その意味は 千葉 長生村 - nhk.or.jp )
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