Saturday, February 20, 2021

ワクチン接種が始まった日本人へ 医師「大きな問題ととらえず…」 - livedoor

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 国内での新型コロナウイルスワクチンの医療従事者向けの先行接種がスタートした。今後は安全性を確認しつつ、高齢者や基礎疾患のある人を優先して順次接種していく。では、ひと足先にワクチン接種が始まったアメリカの事情はどうなのか。「医療現場は地獄の戦場だった!」(ビジネス社)の著者でボストン在住の医師、大内啓氏が日本時間18日早朝、オンラインで緊急提言した。

【写真】大内医師が働く医療現場

 アメリカでは2020年12月11日にコロナワクチンの使用許可が出されると即時にワクチン接種が始まった。大内氏が勤務する米東部マサチューセッツ州ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院は15あるハーバード・メディカル・スクール系列の医療機関のひとつ。ここでも接種が直ちにスタートするはずだったのだが…。

コロナにはがっかりすることばかり

――遅ればせながら日本でもワクチンの先行接種が始まりました。アメリカの医療現場での接種はスムーズに進んでいったのでしょうか?

「情報は国から州へと伝わるわけですが、ルールがコロコロ変わっています。いまは一般の人への接種も始まっていますが最近でいうと、これまでは病院で接種していたのに突然クリニックや日本でいうマツモトキヨシのようなところでの接種に変更になった。初めてのことだから仕方ないのでしょうがエッと、思うことばかりです」

――大内さん自身はすでにワクチンを打たれたんですよね。

「昨年のクリスマス前と1月末の2回、打ちましたが、そこに至るまで紆余曲折がありました。ホント、コロナではがっかりすることばかりです。病院によってやり方は違うと思いますが、私の勤務する病院では医療者の中でも一番患者さんに近い人を優先し、あまり患者さんをみない人、病院で働いているけれど、患者さんとコンタクトを取らない人という順番で接種することになりました」

なんで救急救命医より受け付けの方が先なんだ

「ただ、系列の病院に勤務する人は7万8000人います。患者さんと一番近い位置で仕事をしている人もたくさんいて、うちの病院ではアプリを使って予約を取るシステムを採用したんですが、案の定、これが1日目に予約が殺到してパンク。結局、1週間ぐらい予約が取れない状態が続きました。みんなどうなっているんだ、とメールが飛び交い、騒然となっている中、運良く予約が取れた人は受け付けの人だったりして。何でこの人が救命医の私より先なんだ、と嘆きたくなりました」

――待たされていた期間の心境は?

「例えば内科病棟にいる患者はコロナを持っている、持っていないが分かっていますが、救急医が接する患者は分かっていません。いまでもテストで分かるのは早くて1時間半後。通常で検査結果が出るまでに6時間かかります。そんな状態で1年近く勤務していたわけだから広い目で見れば、1週間待たされてもたいしたことないと思う反面、この1週間の間に大きな病気に罹ったら悔やまれるし、そんな自分に心が狭いな、と思ったりすることもありました」

ワクチン接種は「人体実験でしょう?」と言う人も

――現時点で、勤務する病院の医療従事者への接種はどの程度進んでいますか?

「コロナは2回接種するわけですが、現時点で1回目を終えている人が7万3000人。2回目を打ち終えている人は3万人です。黒人やヒスパニックの人の中には医療を信じていない人もいて人体実験でしょ、と思っている人もいる」

――大内さんが接種したときの手順や状況を詳しく教えてください。

「いつになるのかと思っていたところ、きょう予約していた人が来なくて余っているから打つか、となり、利き腕ではない方の左腕に打ってもらいました。受けたのはファイザー製。注射した部位に2日ほど痛みが続き、この点は毎年接種しているインフルエンザワクチンとは違いましたね。打つ前には説明があり、既往症なども聞かれました。接種した後は別室でソーシャルディスタンスに配慮したイスに座り、35分間のタイマーが作動。副反応はなく、そのまま退出しました。

 ワクチン接種で使用するのは筋肉注射です。日本人は筋肉注射に慣れていない人が多いようですが、そこは従ってもらうしかありませんね」

アメリカ人の死者数は第2次世界大戦超え

――ワクチンの効果はボストンの街にも見られますか?

「効果と言うには早いでしょうが、ツイッターを見てもそうですし、実際に数字は減っている。ボストンのあるマサチューセッツ州のコロナ患者は昨日(2月17日)で1200人、死者50人。7日間平均で患者は1900人です。しかし、アメリカ全体だと一時に比べ減ったとはいえ、患者6万4000人、死者1700人という状況。トータルの死者は第2次世界大戦のそれを上回っています。場所によって爆発の時期がずれており、私の友人が勤務する西海岸のUCLAの病院は地獄だと言っていました。

 ボストンはピークが収まり、いまはICUも落ち着いています。スーパーは開いていますが、レストランや美術館、スポーツ施設、学校も閉まっている状態。息子と剣道の道場に通っていましたが、いまはリモート剣道。日常とはほど遠い状況です」

気になるワクチン副反応の実態は

――ワクチン接種といえば、やはり副反応が気になります。日本でも連日のように関連報道があります。アレルギー症状のアナフィラキシーは米疾病病対策センター(CDC)の報告によると20万回に1回の割合とか。

「手元にあるデータで2回接種して症状が出ている人が3%。痛み、倦怠感、筋肉痛、寒け、熱などです。しかし、死亡した人は1人もいない。アメリカ社会でも打ちたくない人の割合は黒人が多いけれど、打つことで死なないし、亡くなる危険性が減り、大切な家族や知人に移すことがなくなるなら接種するに越したことはないと思います。

 実際、新薬なので心配する人の気持ちも分かります。医者の立場としても新薬はすぐにすすめないし、認証されてから10年ぐらいたって使用したいものですが、今回はコロナですから受けないわけにはいかないと思います」

――デリケートな質問になりますが、オリンピック開催の有無についてはどう考えるか?

「たくさんの人が集まれば、感染リスクは高まる。欧米と日本人の感染者数の大きな違いをみて、ルールを守り、相手のことを思う日本人の国民性の表れと感じる部分は多いです。マスク、咳エチケット、うがい、大きな声でしゃべらない。コロナテストが少ないから患者が少ないと言われますが、死者の少なさが欧米との違いを表していると思います。

 ただ、オリンピックを開催したとなるとどうでしょうか。日本だけの問題ではないですからね。感染爆発も起こりうる。そうなったとき、医療体制はどうするのか。国内だけではキャパシティーは少ない。しかし、開催してコロナの感染を抑えるようなことになれば、すごいことだと思います」

地獄のような医療現場を見て日本人に伝えたいこと

――「医療現場は地獄の戦場だった!」を読み、大変な仕事をされていると頭が下がる思いでした。それと臨終患者とその家族とのシーンが印象に残った。

「別れの場面に何度も立ち会い、人間としてこんな理不尽で切なくて、やりきれないことがあっていいのかと思う。コロナは本当に怖い。だれだって、そんな状況になりうるわけですから」

――接種するのはやはり高齢者からがいいのか?一部では若者から打った方が効果が早いという意見もある。

「やはり、死の危険性が高い人から打った方がいい。アメリカでも高齢者、その次に基礎疾患のある人の順になっている。若い人は罹患しても死に至る人は少ない」

――あらためて、日本人にメッセージを。

「新しい薬ですが、ワクチンを打つのは自分のためだけではありません。そんな大きな問題ととらえず、接種してもらいたいです」

◆大内 啓(おおうち・けい)ハーバード・メディカル・スクール助教授。ブリガム・アンド・ウィメンズ病院救急部指導医としてコロナ禍のER医療の最前線に立っている。1978年、大阪市生まれ。12歳で渡米し、2009年ジョージタウン大学医学部卒業。ニューヨーク・マンハッタン郊外のLong Island Jewish Medical Centerで救急医学科/内科の二重専門医認定レジデンシー(全米で年23人限定)を14年に終了。終末医療、医療格差や効率性に関心を持つ一方で米国の”医療あるある”の漫画化を構想中。趣味はランニング。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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