Sunday, February 28, 2021

テキサス大停電、安定供給にいくら払うか - ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 異常気象に備えて送電網を改善できるかと聞かれれば、答えは「もちろん」だ。しかし住民が受け入れるコストはいくらかという質問は答えにくい。

 テキサス州で寒波が原因の計画停電が実施され、電力供給システムの信頼性に注目が集まっている。カリフォルニア州でも昨夏、記録的な熱波から電力不足が起きた。送電線は社会が機能するために欠かせないのに、なぜ対策が取られないまま放置されているのかと多くの人が疑問に思っている。

 なぜかと聞かれると、特定のエネルギー源――風力であれ、太陽光であれ、天然ガスであれ――のせいかもしれないとか、電力市場の設計が原因だろうとか、きちんとした答えを出したくなる。だがいずれも単独では納得できる答えにはならない。テキサス停電の原因究明には詳細な分析が必要だ。しかし一般的なレベルで言えば、結局はコストとリスク評価の問題である。

 米国の一つの家庭が毎年、医療保険について下す決断は、電力の計画担当者が直面している決断とそう変わらない。救急外来での支払いが高くなることを十分承知の上で、適用範囲が狭くても安い保険がいいという家庭もあれば、高い保険料を払い続けることになっても安心を得たいという家庭もあるだろう。

 電力のシステムも似たようなもので、規制が緩和されたテキサスとカリフォルニアの市場には他の市場と比べて「保険」がほとんど組み込まれていない。両州の市場は、価格シグナルに頼って電力を確保する「エネルギーオンリー市場」だ。一方で、ISOニューイングランドや、13州とワシントンをカバーするPJMインターコネクションなどの市場には、電力が必要な時に備えて、発電所にインセンティブを提供し、いつでも電力を供給できる状態を維持する「容量市場」がある。また公益事業体が全ての電力を所有またはコントロールする、完全に規制された市場のある州もある。こうした規制市場では、公益事業体は州の公益事業委員会の承認を得さえすれば、小売価格を値上げできるため、送電網にできるだけ投資したいと考える。

 それでは、異なる市場構造を採用していれば、カリフォルニアやテキサスで停電は防げただろうか。市場構造が違えば少しは違っていたかもしれないが、停電が100%起きなかったとは言えない。テキサスの市場が完全に規制されていたとしよう。確かに州の公益事業体には、送電網がどのような悪天候にも耐えられるように対策を取る金銭的インセンティブが働いたかもしれないが、投資計画は供給・需要・リスクの将来的な水準の想定に基づいて策定される。特に重要なのは、州の公益事業委員会がそうしたコスト――最終的には家計に転嫁される――が妥当であることに同意する必要がある点だ。

 プリンストン大学で電力システムを研究するジェシー・ジェンキンス助教(工学)は「結局、コストを判断する人間が常に存在する」と指摘する。

 テキサスに容量市場、つまり一部の発電業者が供給能力を待機させておくことに対して報酬が支払われる制度があったとしても、停電は起きなかったとは言い切れない。こうしたシステムでは、供給能力の価格シグナルは送電網の運営会社が想像しうる最悪のシナリオに基づいている。異常気象が発生すれば、容量市場でさえ能力不足が起きる可能性はある。例えば2014年に「極渦」による大寒波が起きたとき、PJMインターコネクションは発電能力の最大22%を利用できなかったことから、容量市場のルールを変更した。これによって、約束していた電力が供給できなかった発電所には重いペナルティーが科せられ、緊急時に期待を上回る電力を供給した発電所には報酬が与えられることになった。PJMはルールの変更について、2018年の寒波の際の電力確保に役立ったと指摘している。この時の発電所の強制停止率は最高でも12%未満だった。

 こうした投資も高いと見なされれば、反発を招く可能性がある。公共料金支払者の権利擁護派は、使用されない可能性のある電力に対する電気代への上乗せが大きすぎるとして、容量市場の価格決定モデルを批判している。米公共電力協会(APPA)の推計によると、PJMが2019年に住宅所有者の電気代に上乗せした発電能力の価格は年間の平均で119ドル(約1万2700円)――月額で9.92ドル――で、電気代全体の9%を占めた。

 コストで折り合うために必要なのは、電力市場の設計を全面的に見直すことではなく、むしろリスクのモデル化を再評価することかもしれない。政策立案担当者が市場価格や規則を設定する前にシナリオに悲観的な見通しを織り込めば織り込むほど、送電網は安全になる可能性がある。カリフォルニアの規制当局は2020年に停電が起きる前、少なくとも2017年から供給能力の不足に直面する可能性があることを把握していたが、行動を起こさなかった。同様にテキサスは2011年と2014年に寒波による電力供給の停止を経験していた。

 極端な気象現象が頻発するようになり、過去の気象データがある程度までしか役に立たなくなったことを考えると、近年の停電は全ての電力市場への警告だ。米環境保護庁(EPA)によると、1970年代以降、夏の異常高温が全国でよく起きるようになり、熱帯暴風雨の数はこの20年で増加した。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の家庭が2019年に支払った月額の電気代は平均で115.49ドルだった。年額に換算すると、米国の家計所得の中央値の約2%になる。州ごとの価格はエネルギー源の構成や市場構造によって異なり、同じ州の中でも大きく異なることもある。2019年のテキサス州の1キロワット時当たりの平均小売価格は全国平均よりも低かった。だが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析では、テキサス州内でも2004年から2019年にかけては、従来の公益事業体から電力の供給を受けた世帯の電気代は全国平均より平均で8%低かったものの、小売事業者から電力供給を受けた世帯の電気代は13%高かった。同州では卸売電力市場が規制緩和されているだけでなく、小売市場も競争が激しく、消費者の6割近くが地元の公益事業体より小売事業者から電力を購入することを余儀なくされている。

 消費水準も重要だ。EIAのデータによると、テキサス州は1キロワット時当たりの電気料金は全国平均より低いが、家庭で使用する電力は多く、月額の電気代は134.07ドルと平均を上回っている。一方で、カリフォルニア州の住民が支払っている1キロワット時当たりの電気料金はテキサス州の住民が支払う料金の1.6倍だが、電力の使用量が少ないため、平均すると電気代は少ない。これは、需要と供給の両方から解決策が得られるかもしれないということだ。

 電力供給システムにほぼ100%の信頼性を求めたいのであれば、将来的にそうすることは可能だ。問題は、世帯によってリスクとコストに対する許容レベルが異なることだ。安全のために住民が総意として払ってもいいと思う金額は科学だけでは決められない。適切なバランスを見いだすには、さらに多くの試行と手痛い失敗が必要なのかもしれない。

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