23/09/02
相続・税金・年金
年金収入で暮らす65歳以上の夫婦にとって、夫が亡くなった後に妻が遺族年金(遺族厚生年金)をもらえるかは気になるところです。そこで今回は、毎月14万円の年金が支給されていた夫が亡くなった場合に、夫に生計を維持されていた妻が受け取れる遺族厚生年金の額を、妻のケース別に紹介します。さらに、妻本人に支給されている老齢年金と遺族厚生年金で、夫が亡くなった後の生活は大丈夫なのか、税金の取り扱いはどうなるかまで、解説します。
遺族厚生年金とは
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。
遺族基礎年金は、18歳になった年度の3月31日までにある子ども、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子どもがいる配偶者に支給されますが、今回はそのケースに該当しないものとします。もし遺族基礎年金の受給対象者である場合でも、遺族基礎年金と老齢基礎年金との併給はできず、どちらか一方を選ばなければいけません。
したがって、この記事における遺族年金とは、遺族厚生年金のことを指します。
●遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金は、次の要件を満たしたときに、遺族に支給されます。
1. 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2. 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
3. 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
4. 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
5. 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
夫がすでに老齢厚生年金を受け取っている今回のケースは、「4. 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき」に該当します。
さらに、4や5の要件で、実際に遺族厚生年金を受け取るためには、亡くなった人の保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上必要です。すでに老齢年金を受け取っている人の場合、基本的にはこの条件もクリアしているはずです。
●遺族厚生年金の受給対象
遺族厚生年金は、亡くなった人に生計を維持されていた遺族のうち、最も優先順位の高い人に支給されます。今回のケースでは妻に支給されます。
●遺族厚生年金の年金額
遺族厚生年金の額は、亡くなった人に支給されていた老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額です。
65歳から支給されている老齢厚生年金はすべて報酬比例部分なので、亡くなる前に夫が受給していた老齢厚生年金の額の4分の3が遺族厚生年金の年金額となります。
では、月14万円の年金収入のうち、老齢厚生年金の部分はいくらだったのでしょうか。
夫がもらっていた月14万円の年金の内訳
厚生年金保険の加入歴がある人は、65歳以降、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建てで年金が支給されます。
2023年度、68歳以上の人がもらえる老齢基礎年金の満額は、792,600円(月66,050円)です。したがって、14万円から66,050円を引いた73,950円が、厚生年金に加入していた時の報酬額や加入期間等に相当する老齢厚生年金というわけです。そして、この73,950円の4分の3である55,463円が遺族厚生年金の額となります。
しかし、妻が受け取っている老齢年金の状況によって、実際に受け取ることができる遺族厚生年金の額は異なるので、2つのケースで見ていきましょう。
遺族厚生年金のケース①:老齢厚生年金の受給権がない妻の場合
厚生年金保険の加入歴がない妻が受け取れる年金は、老齢基礎年金のみです。このケースでは、妻の老齢基礎年金に上乗せして、遺族厚生年金が満額(月55,463円)支給されます。
夫が亡くなる前は、夫婦2人で月236,050円の年金をもらっていましたが、夫が亡くなった後、妻は老齢基礎年金と遺族厚生年金を合わせて121,513円受け取ることができます。
●妻に老齢厚生年金の受給権がない場合の年金収入
筆者作成
この年金収入で、夫が亡くなったあとの生活は安心なのでしょうか。総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、65歳以上の単身無職世帯の月平均支出額は、155,495円です。つまり、毎月33,982円の不足が生じることから、支出の一部を見直す、資産を取り崩してまかなうなどの工夫が必要になります。
遺族厚生年金のケース②:老齢厚生年金の受給権がある妻の場合
妻に厚生年金保険の加入期間があり、老齢厚生年金の受給権がある場合には、「①死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。
もし、妻に月30,000円の老齢厚生年金が支給されているならば、①55,463円、②51,975円となり、遺族厚生年金の額は高い方の①55,463円です。実際には、このうち妻の老齢厚生年金の額に相当する部分の支給が停止されるため、妻の老齢厚生年金との差額である25,463円が遺族厚生年金として支給されます。
●妻に老齢厚生年金の受給権がある場合の年金収入
筆者作成
かつては、遺族厚生年金を受け取るか、老齢厚生年金を受け取るかを選択することができましたが、平成19年3月31日以降に65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人は、自分自身が納めた保険料を年金額に反映させるため、老齢厚生年金の支給が優先されます。
遺族年金は非課税
一定額以上の老齢年金には、雑所得として所得税がかかりますが、遺族年金を受け取っても非課税で税金がかかりません。
したがって、厚生年金保険から受け取れる保険給付は、ケース①と②で同じ月55,463円にもかかわらず、妻自身の老齢厚生年金によって遺族厚生年金の一部が支給停止されているケース②の方が、税金が多くかかる場合があります。
一見、①の方がお得に思われるかもしれませんが、政府税制調査会が2023年6月にとりまとめた中期答申「わが国税制の現状と課題」に、遺族年金を含む非課税所得に対する課税の強化が示されました。遺族年金をめぐる税制の動きには、今後注目です。
まとめ
今回は、毎月14万円の年金が支給されていた夫が亡くなった場合に、65歳以上の妻がもらえる遺族厚生年金の額を紹介しましたが、妻に老齢厚生年金の受給権があるかどうかで、支給される遺族厚生年金の額や、税金が変わります。また、今回のケースのように、遺族厚生年金が支給されても、残された妻の生活費に不足が生じることもあります。そのような事態に備えて、事前にどのくらいの遺族厚生年金がもらえるかを把握して、足りない部分は別に資産を用意しておく必要があることは言うまでもありません。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(AFP)、1級DCプランナー
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの決算や内部統制、DX等の業務に従事。2022年10月に兵庫県で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。NISAやiDeCoを活用した資産形成など、金融系に関する記事をオンラインメディアでも多数執筆。特に、現役世代が今日からできる老後資金対策に力を入れており、「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘中。
Twitter→https://twitter.com/lifehawker
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