東京五輪・パラリンピックを巡り、宮内庁の西村泰彦長官が新型コロナウイルス感染拡大への天皇陛下の「ご懸念」に言及したことが波紋を広げている。天皇は憲法で政治的な行為が禁じられているためだ。 【動画】「昭和史の天皇」企画院総裁 鈴木貞一
菅首相は25日、西村氏の発言について、「(西村氏)本人の見解を述べたと理解している」と記者団に語り、問題視しない考えを示した。加藤官房長官も記者会見で「憲法との問題があるとは考えていない」と述べた。
西村氏の発言について、ある宮内庁幹部は「陛下は開会式で開会を宣言される立場にあるが、一方で開催による感染拡大を心配し、コロナに苦しむ人にも心を寄せられている」と指摘。「開催を巡って国論が二分する中、宮内庁長官としては陛下が片方だけを重んじているわけではないことを伝える必要があると判断したのだろう」と推察する。
五輪開催については25日に告示された東京都議選でも争点の一つになっている。自民党の閣僚経験者は「宮内庁長官の発言は今後、開催慎重派に政治的に利用されかねない」と危惧する。開催の延期や中止を求めている立憲民主党の安住淳国会対策委員長は25日、「西村氏個人の意見だと思っている国民は誰もいない。(政府は)言葉の重みをきちんと踏まえて対応すべきだ」と記者団に語った。
一方、開催中止を主張する共産党の志位委員長は「天皇は憲法で政治に関わらないことになっており、それをきちんと守ることが必要だ」と述べた。
今回の発言について、憲法学者からは厳しい見方も出ている。横田耕一・九州大名誉教授は「宮内庁長官が政治に絡む天皇の思いを公にするのは、問題で越権行為だ。『感染拡大を心配している』との発言は『こんな時に開催するのはけしからん』という意味を持ってくる。五輪に反対する人たちが天皇の意見として都合のいいように利用する状況が生まれかねない」と警鐘を鳴らした。
百地章・国士舘大特任教授は「陛下の思いは、開催した場合に感染拡大が起きないようにしてほしいということだろう」と指摘。そのうえで、「仮にそういう趣旨の思いを感じ取っても、西村氏は公にするのは控えるべきだった」と語った。
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