酒井健司
前回は、広く使用された脳循環代謝改善薬が再評価の結果、効果が確認できず承認を取り消されたお話をしました。他に、承認が取り消されるまではなかったものの、公的保険での使用が厳しく制限されるようになった薬もあります。
今では珍しくなりましたが、昔は風邪の患者さんが「ついでにビタミン剤も処方してください」「ビタミン入りの点滴をしてください」とご希望されることがよくありました。つまり、風邪の患者さんに対してビタミン剤を投与していた医師が過去にいたわけです。
よく言われることですが、いわゆる風邪薬に風邪を治す作用はありません。風邪薬は、風邪に伴う不快な症状をやわらげるだけで、風邪そのものは患者さんの自然治癒力で治ります。風邪の診療の基本は、風邪にようにみえる重篤な疾患(現在は新型コロナウイルス感染症が代表格です)が隠れていないかをチェックすることと、自然治癒力を邪魔しないことです。症状が軽い場合は薬は必要ありません。
とは言え、何も薬を処方してもらえないのを不満に感じる患者さんもいます。薬を飲んだり点滴をされたりすると効果があるような気がするのもわからないでもありません。ビタミン剤は比較的安価で副作用も少なく、風邪に処方するには手ごろだったのでしょう。しかし、風邪のほとんどはビタミン剤を使おうと使うまいと自然に治ります(細かいことを言うと、ビタミンCやビタミンDに風邪を治す作用があるかもしれないという説はありますが、臨床試験では一貫した結果が得られていません)。ビタミン剤を使って治ったという経験をすると、医師も患者もビタミン剤のおかげで治ったように誤認します。「使った、治った、効いた」の「3た論法」です。
日本の国民皆保険制度は、国民全員が比較的少ない自己負担で医療を受けられる優れた制度です。風邪にビタミン剤を処方しても自己負担はたかがしれていますので、患者さんはビタミン剤の処方を希望します。医師も患者サービスだと考えて処方します。しかし、一人一人に対しては安価とは言え、風邪のようなよくある病気にどんどん処方されると、全体の医療費に与える影響は馬鹿になりません。
ビタミン欠乏症などのビタミン剤を必要とする患者さんはいますので、脳循環代謝改善薬と違って承認が取り消されることはありませんでしたが、今では、風邪の患者さんにはビタミン剤を処方できないようになっています。厚生労働省の通達には「ビタミン製剤の薬剤料を算定できるのは、医師がビタミン剤の投与が有効であると判断し、適正に投与された場合に限られる」「ビタミン剤の投与が必要と判断した趣旨を具体的に診療録に記載する」とあり、安易に処方できなくなっています。
ビタミン剤を飲みたい人は、保険診療で処方してもらわなくてもドラッグストアなどで購入可能です。それに、食事ができる方はわざわざビタミン剤を飲んだり注射したりしなくても、食事から十分量のビタミンを摂取できます。ビタミン剤に頼らず、健康的でバランスのよい食事のほうをおすすめします。(酒井健司)

- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
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1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
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