Sunday, October 17, 2021

白血病にビタミンAが効く 大量ビタミンC療法との違いとは:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

酒井健司

 前回は、がんに効く証拠がないのに高額な対価を取って大量ビタミンC療法を行っている自費診療クリニックについて書きました。さて、今回はビタミンAがある種の白血病に効くという話をします。

 急性前骨髄球性白血病は前骨髄球という血球ががん化して増える病気です。急性白血病の一般的な治療の基本は、がん化した細胞を殺す抗がん剤の投与です。すべてのがん細胞を殺すには強力な抗がん剤が必要で、副作用も大きいです。

 ところが、1980年代後半にビタミンAの誘導体であるATRA(全トランス型レチノイン酸)が急性前骨髄球性白血病に著明な効果があるという研究が中国から報告されました。副作用の強い抗がん剤を使っても治らないかもしれない白血病にビタミンAが効果があるなどとは、当初は懐疑的に受け止められていました。しかし、他の国で追試されたところ、やはり効果がみられたのです。

 ビタミンAが効くメカニズムも詳しくわかってきました。前骨髄球は本来であれば骨髄球を経て正常な白血球に分化・成熟しますが、がん化した前骨髄球は分化せずにいつもまでも増殖だけします。ビタミンAはその異常な前骨髄球に作用して分化を促すことで効果を発揮します。日本では1994年に承認され、その後世界中で使われるようになりました。抗がん剤を適切に併用することでより治療成績がよくなることもわかりました。現在でも標準治療の一つで、もちろん保険適用になっています。

 ビタミンC大量療法とは似ているようでだいぶ違いますね。急性前骨髄球性白血病に対するビタミンA療法は保険診療の枠内で低い自己負担で受けられるのに対し、大量ビタミンC療法は保険がきかず高額です。それなのに、ビタミンA療法の効果は世界中で認められている一方で、大量ビタミンC療法の効果はいまだにはっきりしません。

 対象疾患の広さも違います。ビタミンAは白血病にならなんでも効くというわけではありません。他のタイプの白血病にはそれぞれ適切な治療があります。一方で、自費診療クリニックで行われている大量ビタミンC療法は、対象疾患がきわめてあいまいで広く、どのような種類のがんにも効果があるかのようにうたわれているばかりか、精神病やアレルギー疾患にも効果があると標榜(ひょうぼう)されています。大量ビタミンC療法はお金もうけが目的で行われており、対象疾患が多いほうが「顧客」が多くなるからだと私は思います。自費診療クリニックではこのような「なんにでも効く」治療がよく行われています。

 なお、白血病の予防のためにビタミンAをたくさん摂取するのはおそらく意味がありません。ビタミンAの過剰摂取は有害です(白血病の治療の用いる量のビタミンAはそれなりに副作用もあります)。ビタミンAやそのほかの栄養素を含むバランスのよい食事をおすすめします。

 ※参考:急性白血病が経口ビタミン剤で治るなんて信じられない!(http://www.jshem.or.jp/uploads/files/58-08_p1086-1093.pdf別ウインドウで開きます(酒井健司)

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ)内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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